命をつなぐ救命処置

家族や恋人、友人、また偶然居合わせた人が突然倒れてしまったら、あなたは正しい対処ができますか?

 

今回は日常の中で、またアウトドアで遊んでいる時に遭遇するかもしれない、万が一の事態に備えて応急手当、中でも救命処置について説明していきます。

 

命を救うための連鎖

人の命を救うために、“これだけやったらいい”というものはないし、最善を尽くしたとしても、助けられる保証というものもない。

しかし、その可能性を高めるための手順はあり、この手順に沿って必要な処置を行うことによって、救命の可能性を高めることはできるのです。

本題に入る前に、救命とは何かについて説明した「救命の連鎖」(下図)について、見ていきましょう。

命の連鎖

出典「応急手当講習テキスト」改訂5版 一般財団法人救急振興財団 に編集を加え引用“

 

ここにある4つの輪を途切れることなくつなげていく行動が「救命」であり、このつながりが「救命の連鎖」と呼ばれています。万が一、が起こった場合に図の①~③までを現場にいる人間ができるかどうか。各項目を簡単に説明していきます。

 

①心停止の予防

心臓や呼吸が止まってしまう場合、主な原因は急性心筋梗塞や脳卒中であることが多い。これらはもとを正せば生活改善が必要になるものですが、現場ではその予兆を自ら伝えたり、相手に聞いたりして、見逃さないことが重要なことです。

 

何より心肺停止になってしまう前に、事前に予兆に気が付き、対応できるに越したことはないのです。

心停止の予兆

 

②早期認識と通報

もし、人が突然倒れた場合、まず確認するのは、意識と呼吸の有無です。実際の確認方法は後述しますが、声をかけて意識がない、反応がない場合は119番をしてください。この時、自分ひとりで何とかしようと思わないこと。近くに人がいるなら、助けを求めることが最も重要です。

 

なぜならひとりで通報し、心肺蘇生(心臓マッサージ、人工呼吸)をしながら、AEDを探して持ってくる、ということは非常に難しいことなのです。

 

また携帯から119番をする際、GPSを有効にしてあればおおよその位置は救急隊が把握できるようになっていますが、位置情報を提供するのに一番の方法は、電柱番号出先などとっさに住所や目印が伝えられない場合、電柱番号を伝えてください。

電柱番号

電柱番号 電力会社やNTTの番号があるが、通常電柱の上部についている番号を伝えよう

 

③救命処置(心肺蘇生とAED)

ここまで説明することなく、「救命処置」や「心肺蘇生」と書いてきましたが、今一度整理しておきます。

救命処置図

 

今回紹介する「救命処置」は図のように分けられ、「心肺蘇生(心臓マッサージ・人工呼吸)」、「AEDの使用」、「気道異物の除去」が含まれています。

 

心肺蘇生(心臓マッサージ・人工呼吸)

心臓マッサージは停止した心臓の代わりに、外部から強制的に脳やからだの各部に血液を送ってやる方法です。一方、人工呼吸は、呼吸ができず酸素が不足している血液に酸素を送り込むものとなります。

 

“脳は心臓が止まると15秒以内に意識がなくなり、3~4分以上そのままの状態が続くと回復することが困難”[1]になります。

 

人間は呼吸をすることで、血液に酸素を取り込み、酸素で満たされたその血液を心臓が全身へと送っているのです。

救命曲線

出典「応急手当講習テキスト」改訂5版 一般財団法人救急振興財団 より引用“

 

上の図は、心肺停止の際、救急車が来るまでに心肺蘇生(心臓マッサージ・人工呼吸)を行った場合と、なにもしなかった場合について命を救える可能性について表したものです。

 

図からわかる通り、心肺停止後すぐに心肺蘇生を行うことができれば、2分経過しても50%以上助かる可能性があり、2分間なにもしないとその可能性は半減してしまうのです。また、すぐに回復しなかったとしても、心肺蘇生をし続けることで、しなかった時の2倍以上命を救える可能性が上がるのです。

 

平成28年の救急車到着時間は全国平均で8.5[2]8.5分間、あなたや周りの人が協力して、心臓マッサージと人工呼吸ができるかどうか」が命を救うカギになります。

 

AED

勘違いをしている方が多くいると思われるので、先に誤解を解いておきます。AEDよりも、あなたが行う心肺蘇生(心臓マッサージ・人工呼吸)の方が重要なのです。

 

心臓は電気刺激が伝わることで収縮を繰り返しますが、それがうまく伝わらないと「心室細動」という心筋の痙攣が起きます。心臓自体が原因で心臓が止まってしまう場合、止まる直前に「心室細動」が見られるのですが、AEDというのは心停止直前のこの「心室細動」を、電気ショックにより取り除くためのものなのです。

 

AEDは患者に装着すると心電を読み取り、「心室細動」が起こっている時だけ、作動します。

 

裏を返せば、心停止する直前の「心室細動」を起こしている場に自分が居合わせ、その「心室細動」が起こっているさなかにAEDを持ってこられる場合にのみ有効ということなのです。

すでに心臓が止まっている場合にはAEDの効果はないということです。実際、救急隊の方であっても、現場でAEDが必要なケースは1割に満たないのです。

 

もちろん、AEDがあることによって慣れない状況で何をすればいいかをアナウンスをしてくれたり、心臓マッサージに最適なリズムを教えてくれたりとメリットはあります。

 

AEDを取りに行く場合は、傷病者をひとりにすることなく、必ず誰かが心肺蘇生を行いながら同時進行で別の人がAED取りに行くようにしてください。

 

AEDの設置場所については日本救急医療財団全国AEDマップ」を確認しておきましょう。スマホでもGPSをオンにすると、近くのAED設置場所がすぐわかるようになっています。

 

救命処置の流れ

それでは前述した「救命の連鎖」の中の③、現場にいる人がすべき救命処置の流れについて確認していきます。

 

救命処置の流れ[3]

1.周囲の安全確認、安全確保

救命処置を始める際、まずすべきことは周囲を確認し、その人と助ける自分の安全を確保すること。上からなにか落ちてこないか、まわりから車が来ないか、場合によっては傷病者を移動する必要が出てきます。しっかりと周囲を確認しましょう。

 

2.反応と意識の確認

傷病者の耳元まで顔を近づけ、はじめは普通の大きさで、徐々に声を大きくし、同時に肩などを叩いて、反応や意識の有無を確認します。

このとき、全身がひきつっていたり、痙攣を起こしているような場合は、「反応がない」ものとして、ただちに周囲の人に応援を頼みましょう。

反応がある場合は、傷病者の楽な姿勢や痛い箇所などを聞き出し、応急手当や119番へその旨を伝えましょう。

 

3.周囲に協力を頼む

前段で反応がなければ、必ず周囲の人の助けを借りてください。前述したとおり、119番をし、心臓マッサージ、人工呼吸をしながら、AEDを持ってくるのは非常に難しいからです。

 

自分がなにもできなくてもいいのです。急場ではだれかが音頭を取らないと、皆あたふたするだけで、ことは前に進まないはずです。

 

勇気を出してすぐに協力を頼めるか、これは命を救う大きなポイントとなります。

 

協力者は多いに越したことはないですが、自分を含め3人いると、役割分担ができます。やらなければいけないことは①119番、②AEDの手配、③傷病者の呼吸の確認です。

 

「あなたは119番してください。」「あなたはAEDを探してください。」など具体的にお願いしましょう。また、救急車が来るまでの8.5分間、心臓マッサージと人工呼吸を途切れず行うには、交代してもらえる人が必要です。

 

あなたひとりしかいない場合は119番に連絡すれば、なにを優先して行うべきか指示を出してくれます。

 

4.呼吸の確認

傷病者が通常の呼吸をしているかどうかは、その人の胸やお腹の動きを見ることです。ケガなどしていなければ手を当ててみてもいいでしょう。10秒間確認して判断してください。10秒確認してもわからない、またはしゃくりあげるような呼吸、途切れた呼吸のときは迷わず、次の心臓マッサージに移ってください。

 

5.心臓マッサージ

傷病者が通常の呼吸をしていない場合、また10秒確認しても判断がつかない場合には、心臓マッサージが必要です。

 

まず心臓マッサージの場所(下図左)ですがみぞおちのやや上部、肋骨のつなぎ目のやや上部です。両手をしっかり合わせ指を組み(下図中央)手の付根の掌底部分に体重をかけ、垂直に圧迫しましょう(下図右)

 

心臓マッサージでよく言われるのは「強く」「速く」「絶え間なく」。胸がしっかりと沈む(5㎝)まで、1分間に100~120回程度の速さで、途切れることなく行うようにしてください。

また、圧迫は一定の速さでテンポよく行い、圧迫しないときは力を抜き、沈んだ胸がもとの高さに戻るようにします。

心臓マッサージ

出典「応急手当講習テキスト」改訂5版 一般財団法人救急振興財団 に編集を加え引用“

 

6.人工呼吸

さて、小さい頃に習ったと思うが、空気中に酸素はどれくらい含まれているでしょう?

 

正解は21%。窒素が空気中の76%を占め、次に多いのが酸素の21%。その他はアルゴンや二酸化が少量ずつ。

 

人間が吐き出した息の中には、まだ16~18%程度の酸素が含まれています。つまり、人工呼吸を適切に行うことができれば、傷病者の血液に多少なりとも酸素を送り込むことができ、その血液を傷病者の心臓にかわり、あなたが行う心臓マッサージで脳をはじめ各部に送ることができるのです。

人工呼吸

出典「応急手当講習テキスト」改訂5版 一般財団法人救急振興財団 に編集を加え引用“

人工呼吸をする前に、まず気道の確保をしてください。仰向けの状態から片手をおでこ、もう一方の手の指を軽くあご先に当てて、軽く頭全体をうしろに傾けます(上図左)このとき、おでこやあごを抑えている手に力を入れすぎないよう注意してください。

 

次におでこをおさえている手の指で傷病者の鼻をつまみ、相手の口全体を覆うように自分の口を大きく開け、空気がもれないように1秒かけて息を吹き込みます。このとき傷病者の胸が上がってくれば、人工呼吸ができている証拠です(上図中央)

 

胸が上がってこなかったとしても、人工呼吸は2回だけにして、心臓マッサージを中断するのは必ず10秒以内におさえてください。

心臓マッサージを30回行ったら人工呼吸2回、このセットを繰り返します(上図右)

 

また、口を接触させるのに抵抗があれば、タオルやハンカチ、自分の衣服などを使って行うこともできるので覚えておきましょう。

 

AEDがなければ、救急車がくるまでこれを繰り返します。疲れて心臓マッサージを中断したり、質が落ちないようにしてください。あなたの手が傷病者の心臓なのです。一定のリズム(1分間に100~120回)で絶え間なく。協力者と交代するときもこのリズムを崩すことなく、声をかけあい、タイミングを合わせて交代としてください。

 

最後に、人工呼吸と胸骨圧迫の優先順位について。

 

人工呼吸は、わたしたち素人がなかなかうまくできるものではありません。

 

誤解を恐れずに言うと、適切に空気を送り込めない人工呼吸に時間を割き、心臓マッサージを一時中断するよりも、心臓マッサージだけに注力するというのもひとつの判断であることは覚えておいてほしいのです。

呼吸ができていなくても、傷病者の血液にはまだ酸素が残っています。その血液を全身へ送り出してやる、心臓マッサージの方が重要だということです。

 

7.AEDの使用

協力者がAEDを持ってきてくれたら、AEDを使うわけですが、もちろん準備している間も心臓マッサージと人工呼吸は続けなければいけません。協力者に準備をお願いするのがいいでしょう。AEDは落ち着いて説明を読み、アナウンスを聞けば、はじめての人でも使えるようになっています。

AED

出典「応急手当講習テキスト」改訂5版 一般財団法人救急振興財団 に編集を加え引用“

まず、AEDを傷病者の近くに置き、開いて電源を入れる(上図左)。中に入っている電極パッドには、貼り付け位置が示してあるので(上図中央)、その通り傷病者にパッドを貼り付けます(上図右)このとき傷病者の体が濡れている場合は、タオル等で拭きとってから電極パッドを貼るようにしてください。

 

ひとりの場合を除き、これらは必ず心臓マッサージと同時進行で行いましょう。

AED2

 

出典「応急手当講習テキスト」改訂5版 一般財団法人救急振興財団 に編集を加え引用“

電源を入れ、パッドを貼り付けると「体に触れないでください」等のアナウンスがあります。AEDが自動で心電図を解析するので、ここではじめて心臓マッサージを一時中断し、心電図が正確に取れるよう体から離れます(上図左)

 

電気ショックが必要だと解析した場合、「ショックが必要です、体から離れてショックボタンを押してください」とアナウンスがあるので、それに従ってください。

ボタンを誰かが押さないと電気ショックは起こりません。自分を含め周囲の人が体から離れたら、躊躇せずショックボタンを押してください(上図中央)

 

電気ショックが不要と解析した場合は「電気ショックは不要です。すぐに胸骨圧迫をしてください」とアナウンスされます。すぐに心臓マッサージと人工呼吸を再開してください。

 

電気ショックの要、不要に関わらず、心臓マッサージと人工呼吸を再開することになるので(上図右)、AEDのアナウンスをよく聞いて対応しましょう。 

また心臓マッサージを再開後、2分ほど経過すると、再度AEDが心電図の解析をはじめます。

 

 

この心電解析→心臓マッサージ+人工呼吸という流れは、これ以後救急車が到着するまで続くので、電極パッドは一度装着したらはがさないでおきましょう。

 

もしここまでの、心臓マッサージや人工呼吸、AEDの使用のいずれかの段階で、傷病者が目を開けたり、呼吸が正常に戻ったりした場合は、それらを一時中断し、様子を見ながら救急車の到着を待ってください。

 

おわりに

救急隊の中には、傷病者へ対しての「助けてあげたい」という思いが、「助かるはずだ」と、「願望」から「期待」へと変化し、後に結果を聞いてPTSD(心的外傷後ストレス障害)になってしまう方も少なくないようです。

 

冒頭にも書いた通り、命を救うために“これだけやったらいい”などというものはありません。できることの最善を尽くしても、命の保証ができるものではないのです。

 

 

今回いっきに救命処置について説明をしてきましたが、これらはあくまで知識だけです。

 しかし知識をもっていることで、万が一の際に落ち着いて行動でき、救命処置を行える可能性は高くなるはずです。

 

多くの自治体ではこれら救命処置を無料で学べる、「救命講習」を定期的に開催しています。興味のある方は「救命講習」と検索すると、すぐに各地域の詳細がわかるはずです。

 

一度このような講座に参加し、「万が一」のための知識を深めてみるのもいいのではないでしょうか?

 

 

 

 

 


[1] 「応急手当講習テキスト」改訂5版 一般財団法人救急振興財団 より引用

[2] 「平成29年版 救急・救助の現況」 総務省消防庁 参照

[3] JRC蘇生ガイドライン2015(2016) 医学書院 参照

本記事全体にわたり、「応急手当講習テキスト」改訂5版 一般財団法人救急振興財団 を参照させていただいた